日本版救急蘇生法ガイドライン策定小委員会 
一般財団法人日本救急医療財団

新ガイドラインに関わる小委員会の見解

 救急蘇生ガイドラインに対する考え方

日本版救急蘇生ガイドラインは、ILCOR(国際蘇生連絡委員会)のCoSTR(心肺蘇生に関わる科学的合意と治療勧告)に基づいて、AHA(アメリカ心臓協 会)のガイドラインとERC(ヨーロッパ蘇生協議会)のガイドラインを参考に、わが国の実情を加味して策定されましたので、その医学的レベルは現時点での世界的な水準に達していると考えられます。

突然の病で心肺停止に陥り倒れ込んだ人に遭遇した時には、躊躇することなく本ガイドラインの手順に沿って心肺蘇生を実施して、救命に努めて頂きたいと思います。

そのためには、心肺蘇生法を予め学習しておかなければなりません。心肺蘇生法の学習は、自分の大切な家族、友人、そして隣人の命を守りたいという「人間愛」の表現であり、市民としての義務とも考えられます。

心肺蘇生法の学習では「ガイドラインの記載と同じ」でなければ「間違い」と厳しく指導されたと言う話をしばしば耳にします。しかし、この指導法は適切ではありま せん。ガイドラインは世界的水準の心肺蘇生法を「推奨(recommend)」しているのであって、守るべき絶対基準を示しているのではありません。今回の改定は、従来の心肺蘇生法が誤っているので変更されたのではなく、より良い方法を推奨しているに過ぎません。

例えば、胸骨圧迫と人工呼吸の回数比が15:2から30:2に変更になりましたが、15回は間違いで30回が正しいのではありません。実際に心肺蘇生を行った時に25:2であったとしても、それは誤りではなく、恥じることでもなく、ましてや非難されることでもありません。「間違ったらどう しよう」と胸骨圧迫を実施しなかったとしたら、そのことの方が恥じ入るべき事態です。正確に30回の胸骨圧迫を行っても、圧迫が弱かったり、外れた位置を圧迫していたなら期待する効果は得られません。20回であっても正しい位置で十分な強さで圧迫する方が、高い効果が得られ救命で きる可能性が高まります。心肺蘇生法の学習では、回数や手技だけではなく、「なぜそうするのか?」を少しでも理解すると、30:2が推奨されている理由がわかり、習得が早くなり、長く記憶に留まるはずです。

以上の説明から、本ガイドラインは規則や法律のような守るべき基準ではなく、近づくべき目標であることが理解いただけると思います。そして、臨床医学の発展や研究成果によって、どんどん内容が変更されることも併 せて理解してください。

一人でも多くの命が救われ、一人でも多くの社会復帰が達成されることを祈ってやみません。

 救急蘇生に関わる用語の定義


救急蘇生に関わる用語の定義

   応急手当
  • 一般的な傷病に対して、その悪化を回避することを目的として市民により 行われる最小限の諸手当を言う。

   心肺蘇生 (Cardiopulmonary Resuscitation:CPR)
  • 心肺停止患者に対して、心臓マッサージのための胸骨圧迫、および人工呼 吸を包括する概念とする。状況によっては人工呼吸が省略されることもあ る。
  • なお、異物で窒息を来たした傷病者に対して、異物除去を目的として行う 「胸骨圧迫と人工呼吸」も心肺蘇生(CPR)として取り扱う。

   一次救命処置(Basic Life Support:BLS)
  • 心肺蘇生、AEDによる除細動、気道異物除去を包括する概念とする。AED や感染防御具、包帯などの簡易な器具以外には特殊な医療資材を用いない。
  • なお、小児を対象とする場合は小児一次救命処置(Pediatric Basic Life Support:PBLS)と呼ぶ。

   二次救命処置
(Advanced Life Support:ALS)
  • 心肺蘇生、電気的除細動、気道異物除去、蘇生後の急性病態における呼吸・循環管理 を始めとする全身管理を包括する概念とする。一次救命処置と異なり、高度な医療資 材を用いるため医療従事者のみが行う。
  • なお、小児を対象とする場合は小児二次救命処置(Pediatric Advanced Life Support:PALS)と呼ぶ。
  • なお、ACLSは米国心臓協会(AHA)が主管する二次救命処置に関わる研 修コースを指す場合にも用いられているので、混乱を避けるために使用し ないこととする。

   救急蘇生
  • 一次救命処置、応急手当および二次救命処置を包括する概念とする。

 単相性AEDのプロトコール及びエネルギー量に関わるガイドライン策定小委員会の見解

1,1-Shockプロトコール



a)二相性AED

二相性AEDのプロトコールについてはILCOR(CoSTR)、AHA、ERCのいずれもが、通電後直ちに胸骨圧迫を再開すること(1-Shockプロトコール)を推奨している。

 主な理由は:
二相性AEDを用いた場合は初回通電による成功率が高い(86〜98%) 。
心筋の状態は胸骨圧迫を20秒程度中断することによって急速に悪化する可能性が高い。
除細動により自己心拍再開が得られた症例の約90%では除細動直後には胸骨圧迫が必要な状態である。これは、心停止中は右心室の拡張によって心室中隔が左心室側に偏移するため、拍動が再開した直後は左心室からの有効な拍出が期待できないという実験的な観察 結果と整合する。

b)単相性AED

単相性AEDを用いた場合の初回成功率(減衰正弦波:77〜91%、切断指数波:54〜63%) は二相性AEDを用いた場合に比較して低いため、1-shockプロトコールを用いることの理論的根拠は二相性AEDの場合よりも弱い。しかし、単相性AEDと二相性AEDとで異なるプロトコールを採用することは現場の混乱を招く可能性が高い。ILCOR、AHAおよび ERCが単相性AEDを用いる場合にも1-shockプロトコールを推奨しているのは合理的判断であろう。

単相性AEDで1-chockプロトコールを用いる場合の至適エネルギー量は不明である。ILCOR、AHAおよびERCは、種々のエネルギー量の効果を直接比較したデータがないこ とを述べた上で、「単相性のエネルギー量としては360Jを用いることは合理的である」と 述べている。

2.小委員会の見解


a)ガイドラインで推奨する内容

日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会では、諸外国のガイドラインの記述および以下のデータ解析・検討を行なった上で、単相性AEDを用いる場合のエネルギー量として、初回は200Jを用い、2回目以降は200J固定とする、または最大量を360Jとして漸増するプロトコール(1-shockプロトコール)を推奨する。

b)推奨の根拠
(1) 過去の除細動症例に関するデータ記載が充分に信頼できると判断した3つのMC協議会地域(X: n=88 , Y: n=120, Z: n=753)において、単相性AEDを用いた場合の初回(200J)成功率が諸外国の報告に比べて充分に高い。また、2地域において、1ヶ月生存者に限定した場合の初回除細動成功率は特に高い。
  • 表1. 初回除細動(単相性、200J)の成功率
      調査対象全体 1ヶ月生存者のみ
    X地域: 80/88 (91%) 13/13(100%)
    Y地域: 100/120(85%) 21/23 (91.3%)
    Z地域: 634/753(84.2%)    −
    (なお、Y地域において、2回目300Jによる除細動の成功率は9/18(50%)であった)
(2) 上記3地域において、単相性AED(初回200J)と二相性AED(初回150J)の成功率を比較したところ、Z地域では単相性AEDの方が二相性AEDより有意に高かった(P<0.001)。X地域およびY地域においては統計学的な有意差はなかった。
  • 表2. 単相性AED(初回200J)と二相性AED(初回150J)の成功率の比較
      単相性AED(対象者全体) 二相性AED(対象者全体)
    X地域: 80/88 (91%) 91/96 (95%)
    Y地域: 100/120(85%) 58/67(86.6%)
    Z地域: 634/753(84.2%) 279/375(74.4%)
(3) Weaverらは249例の病院外心停止症例(VF)において、直流通電によって組織立った心電図波形が回復する確率を調査した結果、175Jと320J(いずれも単相性波形)でほぼ同等の確率であったと報告している。
(Weaver WD, Cobb LA et al. Ventricular defibrillation ? a comparative trial using 175-J and 320-J shocks. NEJM 1982, 301: 1101-1106.)
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